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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

その男が病気だからだ。そうだ少くとも神経のな」「で、何もかもその親友は、平凡化そうと心掛ける。そうして感激の燃える火へ、冷たい水をそそぎかけ、創造の魂を消そうとする。しかも親友の名のもとにな。他はおおかた知るべきのみだ」

「おい!」と造酒は気不味そうに、「親切で行った友達のしわざを、そうまで悪い方へ取らないでも、よかりそうなものに思われるがな」

「アッハハハ」と銀之丞は、突然大声で笑ったが、「怒るな、怒るな、怒ってはいけない。鬱ぎの虫のさせるわざだ。ああしかし退屈だな。何もかも面白くない。ああ実際退屈だな」

「ご免ください」

とそのとたん、襖の蔭から声がした。同時にスーと襖が開き、隣り座敷の商人客が、にこやかに顔を突き出した。

「お武家様のお座敷へ、旅商人の身をもって、差出がましくあがりましたは、尾籠千万ではございますが、隣り座敷で洩れ承われば、どうやら大分ご退屈のご様子、実は私も退屈のまま、何か珍しい諸国話でも、お耳に入れたいと存じまして、お叱りを覚悟でまずい面を、突き出しましてござりますよ。真っ平ご免くださいますよう」

ていねいにお辞儀をしたものである。