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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

「アッハハハハ、これは秀逸だ。実際お前は不思議な女だ。見さえすればおかしくなる。ところでしまいのもう一人は?」「他ならぬあなた様でございます」「へえどうしておれが不思議だ?」「絹商人と振れ込みながら、毎日毎日商売もせず、贅沢に暮らしておいでゆえ」

「ふん、何んだ、そんな事か」吐き出すようにいったものの、千三屋はいやな顔をした。

「で、何かい七不思議は、今宿場で評判なのかい?」

「さあどうでございますか」いいいい膳を片付けたが、「そんな事もございますまいよ。と、いいますのはその七不思議は、このお杉がたった今、即席に拵えたのでございますもの。はいさようなら、お粗相様」

いい捨て廊下へすべり出た。後を見送った千三屋は、「馬鹿!」と思わず怒鳴ったが、周章ててその口を抑えたものである。

「油断も隙もならねえ奴だ。まさかこのおれを怪しい奴と、感付いたのじゃあるめえな。……こいつ仕事を急がずばなるめえ」

腕を組み天井を見上げ、じっと何か考え出したが、その眼の中には商人らしくない、不敵な光が充ちていた。と、パラリと腕を解くと、その手でトントンと襖を叩き、

「平手様、平手様、ご都合よくば一面いかがで? おうかがい致してもよござんすかえ?」