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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
「おい観世、計られたな」
「いいではないか。うっちゃって置けよ」
「あれは名器だ。何がいい!」
「ナーニこれも一つの解脱だ」銀之丞はのんきであった。
「何が解脱だ。惜しいことをした」「捨身成仏ということがある。大事な物を捨てた時、そこへ解脱がやって来る」「また談義か、糞でも食らえ」「アッハハハ、面白いなあ」「何が面白い、生臭坊主め!」
造酒は目茶苦茶に昂奮したが、「ああそれにしても一晩の中に、これだけの事件が起ころうとは、何んという不思議なことだろう」
「おい平手、詰まらないことをいうな」銀之丞はニヤリとし、「不思議も何もありゃしないよ。この人の世には不思議はない。あるものは事実ばかりだ」「事実ばかりだ! ばかをいうな! これだけの事件の重畳を、ただの偶然だと見るような奴には、運命も神秘も感ぜられまい」「運命だって? 神秘だって? 馬鹿な、そんなものがあるものか。それは低能児のお題目だ。無知なるがゆえに判らない。その無知を恥ずかしいとも思わず、判らないところのその物を差して、不思議だ神秘だ宿命だという。馬鹿馬鹿しくて話にもならぬ。……それはそうと実のところ、おれは少々失望したよ」