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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

を、見て貰いたいがためであった。

「千葉道場におりさえしたら、八州といえども手を出すまい。忠次ここで遊んで行け」

千葉周作はこういって勧めた。

「へい、有難う存じます」忠次はひどく喜んで、二十日あまり逗留した。と云っていつまでもおられない、いわゆる忙しい体だったので、やがて暇を乞うことにした。

「お前達はずんで餞別をやれ」千葉周作がこういったので、門弟達は包み金を出した。それが積もって五十両、それを持って国定忠次は、日光指して旅立って行った。

さて、これまでは無難であったが、これから先が無難でない。ある日造酒が銀之丞へいった。

「観世、お前はどう思うな?」藪から棒の質問であった。

「どう思うとは何を思うのだ?」銀之丞は変な顔をした。

「国定忠次のあの太刀筋、素晴らしいとは思わぬかな」「うむ、随分素晴らしいものだな」「ところであれは習った技ではない」「それは先生もおっしゃった」「人を斬って鍜えた技だ」「それも先生はおっしゃった筈だ」「ところが我々はただの一度も、人を斬った経験がない」「幸か不幸か一度もないな」「そこで腕前はありながら、忠次風情にしてやられたのだ」