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もふく

喪服

久生 十蘭

「文學界」1957(昭和32)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,793 字 · 24 页

青空文庫

秋元に)ちょっと失敬。(退場)

間。

静江、入って来る。

静江 お一人?……浜口は?

秋元 応接間のほうへ行かれました。

静江 (秋元と向きあう椅子に掛ける)秋元さん、あなたにだけ、聞いていただきたいことがあるのよ。

秋元 どんなことです。

静江 一郎さんを殺したのは、あたしなの。

秋元 (笑う)これは、どうも……

静江 何年か前に手放すつもりでいた、四十五年の古いフォードがあったのよ。重心の偏ったいやな車で、右へ頭を振る癖があるの。それで坂をおりれば、かならず失敗るという車……

秋元 (うつむいて煙草に火をつける)……

静江 あなたは、どんなふうに見ていらしたか知らないけれど、一郎さんみたいに薄っぺらで気障な男もないもんだわね。あまりいい気になっているから、すこし苛めてやれと思って、処分せずに、その車を根岸台のガレージに放りこんでおいたというわけ……女の悪念ってどんなものか、よくおわかりになったでしょ。

秋元 一郎さんは、車のことはよく知っていられるから、そんなあぶないやつに乗るはずがないと思いますが……

静江 そうおっしゃったって、乗ったからこそ、こんなことになったんじゃありませんか。