轻松读懂日语经典作品
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もふく
喪服
久生 十蘭
「文學界」1957(昭和32)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,793 字 · 24 页
雨がやんで、道路が凍りかけたころを見はからって、電話で一郎さんを呼びおろしたのは、あたしなんですから。
静江 一郎さんが、電話ぐらいで、あなたのいいなりになるというの?
美紗 どうしたって飛んで来なければならないような電話だったのよ……パパが和解するつもりでいるから、すぐいらっしゃるほうがいいって……
静江 一郎さん、電話に出た?
美紗 出るもんですか。れいのとおり、どこの誰だかわからない女のひと……
秋元 (呟くように)今日はふしぎな話ばかり聞く……電話で呼びおろせば、一郎さんを殺したことになるのかねえ。
美紗 殺す、なんて、いやな言葉ね……どんな瞬間でも、あたし、殺そうなんて思ったことはなかったわ。
静江 堀へ飛びこんだから、一郎さん、死んだのよ。
美紗 お継母さま、あなたはだまっていらっしゃい……(秋元に)空想していたように事が運べば、一郎さん、どうしたって堀へ飛びこむほかなかったわけ……根岸台の家のフォードはブレーキ・ドラムのシャフトがものすごくゆるんでいるの。あたしもいちど、あぶなくやりかけたことがあるので、雨あがりの凍った坂道をおりてくれば、どの辺のカーヴでスリップして、どんなふうに堀へ飛びこむか、はっきりとわかっていたのよ。