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もふく

喪服

久生 十蘭

「文學界」1957(昭和32)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,793 字 · 24 页

青空文庫

静江 まあ、なんというひとなんだろう。

美紗 あたしは単純な女よ。お継母さまのような複雑な掛引はできません……あたしのつもりでは、足の骨でも折るか、風邪でもひいて、半年も寝こむようになってくれたらと思ったの……なんという子供らしいねがいなんでしょう。あたしなんかの思いつくのは、結局、この程度のことなのよ。

静江 死んだと思っていないひとが、なぜ喪服の用意なんかする?

美紗 お継母さま、そんなことをおっしゃってもいいんですか? 誰もあなたの部屋へ入らないからと思って……

八穂、入ってくる。

八穂 みなさまお揃いですね。家族会議ですか。

静江 そんなところで喋言っていないで、ここへ来てお掛けなさい。今日は笑ったりはしゃいだりするような日ではないのよ。

八穂 さっきママの部屋へ行ったら、喪服が出ていた……誰か死んだの。

短い間。

浜口 八穂、お前は一郎のただ一人の味方だったんだ……お前は一郎なんか軽蔑していたのだろうが、それでも骨を折って、われわれの間を調停しようとしていた……今になれば、パパにはそれがよくわかるんだ。

八穂 パパの思いすごしでしょう。あたしにそんなこと出来るわけはないし、しようと思ったこともないわ。