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もふく

喪服

久生 十蘭

「文學界」1957(昭和32)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,793 字 · 24 页

青空文庫

八穂 お早う、パパ。

浜口 (静江に)なにを大きな声をだしていたんだ。

静江 おはようございます……ご機嫌はいいようね。

浜口 おれはむかしから寝起きのいいほうだ。

静江 今日は?

浜口 今日は家にいる。(食卓の椅子に掛ける。海を見ながら)昨夜、夜中近くに大雨が降ったが、いい天気になった……どうだ、あの海の色。

静江 おだやかな海。

浜口 昨夜、よく眠れたかい。寝言をいっていたようだが。

静江 寝言なんか言ったかしら。

浜口 なにか妙なことを口走りはしないかと思って、冷々した。

静江 ずいぶん気をまわしたものね。

浜口 (スプーンをとりあげて、フルーツ・カップのオレンヂをすくって食べる。タンと舌を鳴らす)うまい。

静江 あなたは、ひとが嫌だということばかりなさるのね。

浜口 みなで朝食をするのはひさしぶりだから、ちょっとハメをはずした……幸福というものも、ひとを酔わせる作用があるらしいな。

静江 そのご意見、素朴すぎるようね。

浜口 お前はどう思っているかしらないが、完全なハウス・ライフ以上の幸福は、この世にはないものだ。めったにめぐりあうことはないが。

静江 この家庭に、なにか欠けているものがあるんでしょう。