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とらわれびと

囚われ人

豊島 与志雄

「群像」1952(昭和27)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,109 字 · 35 页

青空文庫

だが正夫は、顔を伏せたきりで、前よりも一層項垂れて、額を両の掌でかかえている。時彦のそばから、女が一人立ち上る。赤い服装。体も四肢もへんにくねくねして、骨の代りにぜんまいでもはいってるように見える。

愛子――愛子にも言い分があるわ。あんた一人で正夫さんを独占しようとしても、そうはいきませんよ。ねえ、正夫さん。

正夫は顔を挙げて、不思議そうに愛子を眺め、そしてまたすぐに顔を伏せてしまう。

愛子は正夫の方に片腕を差し伸べ、人差指と中指とを二本差し出し、その手をふらふらと打ち振る。

愛子――正夫さん、正夫さん……愛子の方を見てごらんなさい。そっぽ向くもんじゃないわ。

愛子は突然笑いだして、腕を引っこめ、両手を腰にあてがい、時彦と同じような姿勢を取る。ただ、時彦は棒みたいに突っ立っているが、愛子は始終、体をくねくねと動かす。

愛子――正夫さん、時彦なんかに騙されちゃだめよ。あんたはすぐ人に騙されるたちだからね。騙されるなら、あたしに騙されなさい。だって、あんたは愛子が好きでしょう。いつも愛子、愛子って、あたしのそばにつきっきりじゃないの。あたしが外に出かけて、帰りが少し遅くなると、あんたはごろりと寝ころんでいて、声をかけても、すねたように返事をしない。