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とち
土地
豊島 与志雄
「青年」1924(大正13)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,719 字 · 22 页
平助はそれを大事にしまっておいて、彼女が学校に行く時も被らせなかった。が不意にそれを取出して、弁当を届ける時には被って来いと云いつけた。着物も顔も手足も黒く汚れているのに対して、その新らしい麦稈帽子だけが、黄色がかった白色にぱっと冴えていた。
荒地の中には、白や赤や黄の小さな花が方々に咲いていた。稲田の畔道には、紫雲英の返り咲きもあった。小川の中や稲田の水口には、小さな魚が群れていた。おみつは古蚊帳の切端で作って貰った手網で、それらの小魚をしゃくったり、野の中で花を摘み集めたり、蝉の脱殻を探し廻ったりした。
おみつが余り遠くへ行くと、平助は伸び上って呼んだ。
「みつう、みつう。」
何度も呼ばれてから漸くおみつは戻って来た。
「余り遠くに行くでねえぞ。虫に螫されたり怪我したりするといけねえからな。おらが近くで遊ぶんだ。」
「お父つぁんは仕事ばかりしてるから、おらつまんねえもの。」
「よしよし、あとで大きい鮒をとってやるだ。」
然し彼はなかなか仕事の手を休ませようとはしなかった。おみつは遊び疲れ、退屈に疲れると、彼が掘り起した草木の根を運んで、少し手伝おうとした。