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トソンラン

土城廊

金 史良

「文芸首都」1940(昭和15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,752 字 · 52 页

青空文庫

「ど、どうかしてるだと、どうかしてるだとも、え、どうかしねえでい、いられるかよ」

辺りがしーんとなった。

その時である。不気味な瞬間を突いて北の手に幾間か離れた所から、何かしら訳の分らない「けっけっ」という甲高いわらい声が遠雷のように起った。全くそれは思いがけぬことだった。辺りが薄暗くて今まで彼等はそんなに近い所に人がいようとは知らなかった。で、みなの目は一斉にそこへ惹かれた。腹這いになっていた男は、如何にも莫迦にしたように体をよちよち起した。闇を通してみればそれは近所の跛乞食だった。

「えっへへ、成程立派な人間様だあ、よくも働いた、態あみやがれ、えっへへ」

続け様に肝を潰すようなわらいをがらがらと挙げた。それきり再びへたへたと腹這いになって鳴りを沈めた。一同は仕方なさそうにお互い顔を見合わせて黙り込んだ。

土城の南の方からは徳一老婆のしきりに何か叫んでいる声が聞えて来る。彼女は流れに攫われた任生員の小娘の水霊と話し合っている訳なのだ。それは綺麗なはしっこい子だったので、土城廊の人々は彼女の死をどんなに悲しんだか知れない。無口な任生員は娘を奪い去った川へ下りて行っては、いつも棒でふらふらと水の中を掻き廻していた。