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トソンラン

土城廊

金 史良

「文芸首都」1940(昭和15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,752 字 · 52 页

青空文庫

――さすがの元三にも今に自分の土幕が押し流されるだろうことがはっきり分った。自分や先達の土幕の五六尺下はもはや濁流が渦巻いている。鳥肌立つ冷気が漂い上りぞくぞく身慄いした。

爺はむっつりして這い出て来ると今度はぼんやりと空を眺めていたが、破れ落ちた壁に目をやれば云いようもない暗然とした気持になった。壁はすっかり雨に浸っているので、泥をこね上げて新しく土塊をつけて見てもぱさりと崩れ落ちるだけだった。上からの流れ水でも落ち込まぬように、下壁の廻りを築き上げても見た。だがどうしても仕事に身の入る筈がなかった。

時々爺は倒れかかっている先達の小屋を打ち眺めては溜息をついた。直ぐに手入れをせねばなるまいと気に病んでみるが、又じき思い迷ってしまう。一体先達はどうするつもりであろう。今に土幕が崩れそうなのに、朝の三時から彼は倉庫へ働きに出掛けているのだ。婦は又どうしたのか小屋に俯伏せになっているきり顔さえ出さない。あの噂が立って以来爺は一度も先達の夫婦と打ち解けて、これからのことを相談したこともなかった。婦は爺が近附いて来る度に、何時も慌てて両手を前に突っ張り声をふるわせるのだった。