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もぐら
土竜
佐左木 俊郎
「文章倶楽部」1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,991 字 · 21 页
すがすがしい土の香も、既に全身に沁みつくして、彼の嗅覚を刺激するようなことはなかった。美衣美食の生活者が、美衣美食を知らぬと同じ悲しさが梅三爺の上にもあった。
「東京になざあ、こうえな青々したところ、どこにも有すめえもねえ。」
「え。ずうっと郊外、在の方へでも行かなければ……。なんと言っても、田舎のことですね。全く、百姓の生活に限る。」
彼は語尾を独り言のように結んで首を項垂れた。
竜雄は、三年前に東京へ出て行った。高等予備校に通って、高等学校の受験準備をするのが目的であった。しかし、彼は三度の入学試験に、三度とも撥ねられた。今の彼の心には、田園生活がとぐろを巻いているのであった。
「そうで有すべかね?」
「どうも僕なんかには、東京は適当ねえようだね。うるさくって、うるさくって。あれじゃ、気が荒くなるのも無理はねえですよ。ちょっと電車へ乗るんだって、まるで喧嘩腰だもの。――さあ、どうです一本……」
竜雄は、ポケットから「敷島」の袋を取り出して、梅三爺にすすめた。
「あ、宜がすちゃ、宜がすちゃ。」と、梅三爺は辞退して、「ヨーギ、其処から、どらんこ(煙草を入れる佩嚢)持って来う。