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もぐら

土竜

佐左木 俊郎

「文章倶楽部」1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,991 字 · 21 页

青空文庫

「あ、竜雄さんでがすか?……」

梅三爺は思い出したように、また懐しそうに言って青年の方へ歩み寄った。梅三爺は、その若き日の過去を、幾年となく竜雄の家に雇われてきたのであった。市平もまた、田園遁走までの四五年を、父親の後を引き継いでいたのであった。

二

刈り倒された青草を藉いて二人は腰を下ろした。

「今日は、なんの方でがす。山遊びしか?」と梅三爺は訊いた。

「山遊びなんて、僕もそんな暢気なことはしていられなくなってね。今日は、山巡りに来た序でなものだから……どうも草盗まれて、萱まで刈られんので……」

「あ、ほうしか。」

爛れた眼をくようにして、梅三爺はもう一度彼の姿を見直した。

「山は、まったくいいですね。」と竜雄は、あらためて四辺を見廻すようにした。

「え、山はね。宜がすちゃね……」

「どこを見ても、みんな緑だ。実に新鮮な色彩だ。それに、土の匂いがするし……。ほんに、田舎に限るな。」

彼は独り言のように言った。

梅三爺も爛れた眼をるようにして四辺を見廻した。鼻もうごめかしてみた。――しかし、雑草の緑が沁みついた梅三爺の瞳には、決して新鮮な眺望ではなかった。