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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

主婦さんは天野の部屋へゆく道で冬子に、春風楼の楼主は「まだ訳の分る方」だといって聞かした。冬子は「身受け」が少しも嬉しくないとさえ思えた。とにかく楼主は冬子を「二千円で自由にして」そして「冬子によろしく」と言って帰って行った。

この夜、二台の俥が春風楼の門口についた。天野と冬子であった。十時近い茶の間には菊龍とお幸と女将がいるだけだった。

「女将さん只今。天野の旦那様も御一緒にいらしって下さいました」

「これはまあお初にお目にかかります。さあ、どうぞこちらへ」

白い浴衣がけの身軽な天野は二階へ上がった。上がりしなに冬子の方を見て、いいかいというようにうなずいて見せた。女将はお幸に莨盆を持たせて後についた。残っている冬子に楼主は、

「今朝はわしが古龍亭に呼ばれてな――まだ店の女共には言わないでいるが、えらい急なことになったじゃないか」そこへ女将が下りて来た。

「冬子さん、お前さん前もって電話でもかけて置いてくれれば妓共も揃えたりなんかして置くのに、ほんとにわたし気が気でありゃしない――とにかく二階へ上がって頂戴な」

「女将さん、ことによるとわたし――」

「まあ話はあとにしてさ」