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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

もし教師が咎めたら僕の従姉で、母の代りに来たのだと言いたまえ。但し僕は下手な習字を一枚出したきり何も出さなかったからそのつもりで、と書き送った。きっと行きますわ、と和歌子は答えて来た。愛人を待つものの純潔な昂奮が、面白くない土曜日を生涯の悦ばしい輝ける日とするのである。その日、平一郎は幾度二階の教室の窓から、正門から桜の並木の下を通る控室への小径を見下したことであろう。朝のうちは来ないと知りながら足音がすると彼はのぞかずにいられなかった。昼食をすまして級の者と交替してから彼は教室や校舎の中にいる気がしなかった。彼は深井を誘って校舎の横手の小高い丘の上に登った。丘の上からは校門から小径があきらかに見える。二人は草原にねそべって話しながら未だか未だかと待っていた。深井はこの頃しきりに話す少年らしくもない西洋の作家の話や、今の日本の新進の文学者の話などをしきりに平一郎に話した。平一郎はまだ文学――小説などいうものに根柢的な意志を動かしたことはなかった。もしそれが深井の口から話されなかったなら、「うるさいな、女のくさったような女々しい泣言は僕は大嫌いだ」