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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

親爺が立ち上ったらしかった。主婦さんの甲高い声が聞えた。「あ、何を――」という慎しみを忘れないうちにも全力的な悲鳴に似た女の声がして、やがて、けたたましく階段をのぼって来た。細帯のままのさっきの女が、はげしい動悸と、恐怖と、怒りを、抑制しつつお光の傍へよって来た。お光は床に起き直った。秋の月の光がかすかに射し入っていた。

「こちらへいらっしゃい」

「は、どうも相すみません」

女はしょんぼりそこに坐って慄えていたが、恐ろしさよりも怒りの方が勝っているらしかった。何もかもがあまりに明らかに判りすぎている事実であった。お光は自分の枕をずらし、座蒲団を円めて枕の形にして、自分の床の傍をあけて、「こちらへはいって、おやすみなさい」と言った。女は「すみません」と小声で言いながら、お光のわきに小さくかがまり横になった。お光も横になった。そして階下の物音に耳を澄ました。しかし階下はひっそりして、主婦さんも親爺も静まりかえってしまった。お光は女のほっそりした肩先の止め得ない戦慄を感じていた。偶然ではあったが、お光はこの時女と自分との心がぴったり融合し合っているのを感じないわけにゆかなかった。