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ちじょう
地上
島田 清次郎
地に潜むもの
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页
「冬子さん、何とした縁でしょう。ほんとに何とした不思議な縁でしょう」とお光は平一郎もどうにか承諾していよ/\相談が双方にまとまったとき、彼女の平常に似ず、涙ぐんだ感激で冬子に言った。
「小母さん、わたしこそですわ。もしも小母さんがいらっしゃらなかったら、わたしはどうなっていたでしょう。きっと今よりもずっとずっと悪いわたしになっていたに相違ありませんわ――今のままだってわたし小母さんにしょっちゅうすまない気がしていますのよ」と冬子は言った。
六月中旬のある日曜日の朝早くから、お光は冬子と雇い男に手伝われながら、荷造りや掃除をどうにかすました。唯一つ残っている黒い漆塗りの箪笥と長持を人夫が車に運ぶのを見ていると何故か涙がにじみ出て来た。苦い流浪の悲苦とでも言おうか。最後の移転車に冬子がつきそっていったあと、道具の取り払われた荒廃した室内を見ることは彼女をしてとうとう泣かしてしまった。言いようのない頼りなさであった。夫の俊太郎の死後、後家としての彼女に深く浸みいる人生の孤独と淋しさとであった。彼女は「ほんとに人生はひとり生まれ、ひとり死ぬものだ」と思うと涙がわいて来た。