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ちじょう
地上
島田 清次郎
地に潜むもの
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页
「その、そのお婆さんがお好きだから、それ、好きだからしょうがないんだよ」
「うまく、うまく言っているね、こんな爺さんに若いときはわたしが惚れたのが一生のあやまりだね、全く、あやまりだね」
「あやまりさね」
「あやまりだね」
「ところがだ、そのあやまりが、またいいのだからね」
「あやまりだね、と」
「ところが、そうれそのあやまりが生きてくるから妙だよ」
「その頃はまだ頭も禿げずいい若い衆だったから妙なのさ――おや、わたしを迷わして置いてさ、何だよ、存分に迷わして置いてさ」
こうした言葉が奥座敷から聞えた。楼主も女将も自分が何を言っているのか全然無意識状態にあった。たるんだ静けさが家いっぱいに充ちていた。店の間では鶴子が仰向けになって寝入り、小妻は時々ううむ、ううむと唸った。その上に黄色い日光が漂っていた。一列に店先に並んだ端の方の二台の鏡台に向って鬢のもつれを撫でつけながら、若い菊龍と富江は止度なく湧いてくる笑いに全身を波立たせて共通な何かを話しあっていた。
「覚えていらっしゃい、菊ちゃん、あたしが手水に行って着物を着替えてもまだ次の室で寝ていたくせに、ひとのことを言えるわけじゃないわ」