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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

「ここですのよ、平一郎さん」すると米子の金属性な高い調子が顫えた。

「小母さんは朝から冬子姐さんと一緒に来ていらしってよ」

「ありがとう」それは平一郎であった。彼は学校が退けてから、忘却してもとの住居に帰って階下の主婦さんに笑われたのだ。彼は春風楼はよく知っていたが廓の街を一々知らなかった。それに彼はよく通りつけている坂を下りずに、別な入口の青柳の生えている広小路から這入りこんだので、途中で見当がつかなくなった。それ程にどの家も同じように紅殻格子の二階建だった。彼は小倉の白地の夏服にゲートルをつけた制服姿で、街の十字街に、疲れた足を休めていたのだ。すると右手の細い小路から、桃割に、白の奉書の根付をした、見覚えのある少女市子と米子が踊りの扇を持って出て来て、彼を見て微笑んで二人で何か囁いて行き過ぎようとした。彼は思いきって、「春風楼はどちらでしたっけ」と訊ねた。

「春風楼はあたしの家よ」円顔の毛深な眉毛や睫の鮮やかな背の低い方の少女――市子が答えると、細顔の鼻の高い目のちら/\と動く背の高い方の米子がぽっと頬を染めて、

「平一郎さんでしょう」と言ったのだ。