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しおばな
塩花
豊島 与志雄
「世界」1946(昭和21)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,421 字 · 25 页
が新聞紙上に発表され初めた日の翌日、そのことも、ここには少しも反映していなかった。然し反映していないそのことが、なにか普通でなかった。それが今、はっきりしてきたのである。謂わば、卑怯らしいもの、卑屈らしいものが、あったのであろうか。
思い出されたように、ビールが盛んに飲まれた。
波多野未亡人が時々出て来て、来客たちに愛敬をふりまいた。その態度のなかに一種の気位と羞みとがこもっていて、彼女はいつもより若々しく見えた。末席に控えていた山口専次郎は、彼女の肉附の豊かな柔かさに眼をとめた。と同時に彼は、魚住千枝子の皮膚の緊張した薄さを思い浮べた。が千枝子自身はそこに姿を見せなかった。未亡人も別室に女客達があって、そちらへ行くことが多かった。
「日本のビールは世界的なものですな。アメリカの兵隊も、これだけは讃美していますね。」
そういうことから、戦争犯罪のことに及んでいって、猪首の人が、犯罪人としての通告を受けた人々について話をした。或る者は泰然自若として、顔色一つ変えなかった。或る者は蒼白になって、来客の前にも拘らず手の煙草を取り落した。或る者は渋柿をなめたようなしかめ顔をした。