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しおばな
塩花
豊島 与志雄
「世界」1946(昭和21)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,421 字 · 25 页
」
未亡人は嬉しそうだった。
出されたのをつまんでみると、なるほど甘かった。それで山口は、そのような物を茶菓子に出されたことを、自分に対する未亡人の寵遇だと解釈し、これほど甘いものなら自分も拵えてみたいからと媚びて、実地見学を申し出た。
干し場は二階のバルコニーにあった。薩摩芋をごく柔くふかし、皮をむき、半センチぐらいの厚さに切り、簾の上に並べて、太陽の光に数日間曝すのである。
山口がそのバルコニーに出ると、丁度、魚住千枝子が、簾の上の干し芋を裏返してるところだった。
「おや、あなたもお手伝いですか。いま、奥さんから、さんざん自慢されたところです。」
彼女は立ち上って、真面目なお辞儀をした。それで山口は、ちょっとまごついて、お辞儀を返しながら言った。
「先日は失礼しました。吉村さんのところで……。」
彼女はちらと微笑んで、また芋の方にかかった。
「時々、吉村さんのところへお出でになるんですか。」
「ええ、書物を拝借しましたり、お話を伺ったりしますので……。」
彼女は振り向きもせずに答えたが、その横顔が、さっと血の色を湛えたまま緊張して、殆んど透明と言えるほどに冴え返った。