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ぼちてんぼうてい
墓地展望亭
久生 十蘭
「モダン日本」1939(昭和14)年7月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,485 字 · 93 页
竜太郎は長い廊下を帳場のほうへ駆けながら大きな声で叫んだ。
「なんて馬鹿なことをしたんだ。……このくらいのことは、もっと早く気がついていなくてはならなかったんだ。……だが、どんなことがあっても、もう一度逢って見せる。……どんなことがあっても!」
帳場では、番頭がちょうどやって来たばかりのところだった。
「昨日着いた客の中に、もしか二十歳ばかりのブロンドの娘が……」
冷淡な声で、番頭が遮った。
「昨日は、お発ちになるお客さまばかりで、お着きの客はございませんでした」
「でも、昨夜、土壇で……」
「ご旅行の方が、ご自由にお立ち寄りになりますから」
ご旅行の方! この、ちょっとした言葉が、針のように鋭く竜太郎の耳を抉った。
「今朝早く、鼬鼠のケーブを着た」
番頭は、手で遮った。
「なにしろ、手前は、たったいまここへまいったばかりでございますから、何分にも……」
(昨夜、十二時半が鳴るのをたしかに聞いた)
「では、昨夜おそく……たぶん……」
「なにしろ、大勢のお客さまのことでございますから」
竜太郎はしおしおと、自分の部屋のほうへ帰りかけた。
何とも言い表し難い、はげしい孤独の感じが、鋭く胸を噛んだ。