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ぼちてんぼうてい
墓地展望亭
久生 十蘭
「モダン日本」1939(昭和14)年7月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,485 字 · 93 页
竜太郎は、この長い間、いつでもひとりで暮らしていた。しかし、こんな寂しさを感じたのは、これが最初だった。世界中から自分ひとりだけが見捨てられたような佗びしさだった。自分の部屋の前へ帰って来て、ふと見ると、部屋の扉が半開きになっている。感動して、思わずそこで立ち止った。息苦しくなってギュッと拳を胸におしあてた。
(帰って来たんだ!)
竜太郎は喜悦の情に耐えられなくなって、勢よく扉を押して部屋の中へ走り込んだ。
空色の大きな絨氈の上に、朝日が陽だまりをつくっている。部屋の中には誰れもいなかった。
竜太郎は唇を噛んだ。そうしようとも思っていないのに、ひとりでに身体が動いて、絨氈の上にどっかりと胡坐をかいて腕組みをした。
(なるほど、こうすると、たしかに落ちつく)
ふと日本から遠く離れていることを思って、うっすらと涙ぐんだ。この、十何年にまだ一度も無かったことだった。
時計が八時をうつ。
竜太郎は、低く、つぶやく。
「今日は、いよいよ死ぬ日だ」
この部屋の窓からも、真向いに、南画のような松をのせた赤い岩が見える。地中海の青い水がはるばるとひろがっている。
「間もなく、おれは、あそこで死ぬ」