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はかば
墓場
西尾 正
「真珠」探偵公論社、1947(昭和22)年11・12月合併号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,934 字 · 20 页
そして何故トオマス・スティヴンが帰って来ないのかの理由については、彼か、彼自身の影か、――或いはまた名も知れぬ、妖物(というより他に説明のしようがないのだが)――それらが語り得るのみです。
前にも言った通り、トオマス・スティヴンの怪奇な研究についてはよく知っていましたし、或る程度まで関係もしていたのです。尨大な稀覯本の蒐集その中には稀に解し得ない本もあって、大部分はアラビア語だったと思います。そして彼が死ぬまで持っていた悪魔に憑かれた本、どこかの国から持って来てポケットにひそめていた本は――かつて見たこともない奇妙な文字で書かれてありました。スティヴンはその本の中に何が書かれてあるのか、少しも語ってはくれませんでした。われわれの研究題目について理解できなかったのはむしろ有り難いことです。何故ならそれは恐ろしい研究であったし、実際的な意味よりも、むしろ忌まわしい魅惑を感じながら、研究して行ったからです。スティヴンはいつもわたくしを支配しておりました。時には彼がこわいと思うこともありました。あの出来事の前夜彼の表情を見て何と震え戦いたことか、今でも憶えております。