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へんなおとこ
変な男
豊島 与志雄
「中央公論」1923(大正12)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页
辰代が耳を傾けているのを見て、其処にいた澄子も今井も耳を傾けた。暫くして、「戸締はしてあるでしょうね、」と辰代は不安げに尋ねた。してある筈だと澄子は答えた。「でも何だか怪しいわ。今井さん、見て来て下さらない?」と彼女は云い出した。今井はすぐに立上ったが、奥の室から薄暗い台所の方を覗き込んだばかりで、先へ進もうとはしなかった。「ほんとに意気地なしね、」と澄子は怒ったように云いながら、後から立ってきて、いきなり今井を台所へ押しやり、自分も一緒に進んでいって、ぱっと電燈のねじをひねった。今井はその俄の光に、眼をぱちぱちやっていた。それを見て、澄子はおどけた笑い声を立てた。
そういう風な今井の様子を、辰代は呆れ返って眺めた。肩幅の広い骨組の頑丈な今井だけに、滑稽でもあれば痛々しくもあった。そして、これは多分肺病の初期とか神経衰弱とか、そういった風の病気に違いない、或はその両方かも知れない、というように彼女は考えた。
「あなたどこかお悪かございませんか。」と彼女は尋ねてみた。
「いえ別に何ともありません。」と今井は答えた。
それでも辰代は肺病とか神経衰弱とかについて、それとなく中村に問いただして、結局今井の生活がいけないと結論した。