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かわる
変る
豊島 与志雄
「知性」1942(昭和17)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,972 字 · 14 页
大五郎はつっ立ったままじっと眺めた。眉根がぴくりと動いたきりで、日焼けのした厚い皮膚は深く静まり返った。
「君は片山さんに似てるね。」と彼はぽつりといった。
片山さんというのは、自由主義的だと見られてる有名な政治家だった。
「似てますかね。」と相手の一人はおとなしく応じた。「片山さんはよく知ってますよ。懇意にしていますんでね。始終出入りしてますし、選挙の手伝いもしたことがあるんですよ。片山さんに、似てますかね。」
こんどは、大五郎の方で返事をしなかった。むっと口を噤んで、ただじっと二人連れを見ていた。
「花ちゃん。」
お上さんが突然、女中を呼んだ。
「勘定を貰いなさいよ。何を出したの。お酒とお通し、……八十銭、貰っておしまいなさい。」
大五郎は彼女の方を向いて、まだじっと立っていた。彼女は女中の方にいった。
「八十銭きりだよ。どうしたの。こまかいのがなかったら、いくらでも、おつりをあげますよ。」
大五郎はズボンの隠しをさぐった。そしてゆっくりと八十銭を探しだし、呑み台の上に静かに置き、毛糸の手袋を掴んで、表へ出た。その時すぐ、もう燗がつきすぎてる銚子を、背広の男へ女中が差出したのを、大五郎は見返りもしなかった。