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かわる
変る
豊島 与志雄
「知性」1942(昭和17)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,972 字 · 14 页
壁と天井が白く塗ってあるので、狭い屋内は妙に明るく見えるが、数個の電灯の燭光はさほど強くない。柱の籠に投げ入れてある桃の蕾と菜の花の色も、季節に早いせいばかりでなく、へんに淡い。だが、木下大五郎の存在は目立った。帽子と外套の襟及び袖の折返しに、薄茶色の絨毛がもりあがっている。その色ではなく、そうした服装が、季節後れというよりも、なんだか場違いなのだ。ひいては、彼の存在そのものまでが場違いなのである。
その場違いなものを、大五郎はかすかに感じながら、また誇りともしていた。眼には穏かな光があった。残り少ない銚子の酒を、小さな盃で一杯ぐっと飲んで、隣席の男の横顔をじっと眺めた。
長髪に眼鏡、可なりいたんだ背広と外套の痩せた中年の男だった。新聞か雑誌に関係の者らしい。
「君の顔は立派ですな。中高で、何より、鼻が高く、ギリシャ型というんですか……。そこにいくと、僕の顔なんか、どうも……。」
大五郎は、帽子の絨毛と同じ色の手袋を、呑み台の上に投げ出していたのへ、ちょっと手をやり、その手ですぐ、日焼けのした頬を撫でた。
相手の男は、ちらと見返しただけで、煙草をふかしながら、ちびりちびり飲んでいる。