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かわる
変る
豊島 与志雄
「知性」1942(昭和17)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,972 字 · 14 页
たといそれを見つけたとしても、彼はやはり黙って出て行ったであろう。
何か深い思いに捉われていたのである。その深い思いの底から、酔った頭に、大きな犬の姿が、如何にも自然らしく、浮んできた。
それは、彼の奉天の店へ、時々現われた犬である。恰好はセパードに似て、大きさや毛並は土佐犬に似た、ひどい雑種だ。往来で、何かに瞳をすえて、歯をむきだしてる姿には、ひどく猛々しいものがあった。そいつが、どういうものか、店の中へ時々はいりこんできた。はいって来ると、鳴きもせず、歯をむきだしもせず、へんに面喰ったような愚鈍な様子になって、隅っこに屈みこんでいる。料理の残りを投げやっても、食べようとしない。足をふみ鳴らして立上らせようとしても、きょとんとしている。そして酔客から酒をぶっかけられると、ぶるっと身体をふって雫をきり、のっそりと外へ出て行くのだった。それが、老犬や病犬ではなく、大きな逞ましい若犬なのである。
何のために店へはいってくるのか、誰にも分らなかった。物も食べず、何とされても怒りもせず、のっそり出て行くのが、誰にも不思議だった。それから寒気がきて扉を閉めきるようになると、全く姿を見せず、往来にも見られなくなってしまった。