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よるのわかば
夜の若葉
宮本 百合子
「婦人朝日」1940(昭和15)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,072 字 · 24 页
「友兄さん、今うれしいからなんでしょう」
順助は、
「ああ、そうか」
と笑って、
「友二さん、学位とれることになったんだそうだ」
と桃子に説明した。
順助は、音楽会へ女の子をつれて来るのが好きというたちの青年とは全く反対の性格である。その気質をよく知っている桃子が、今夜は思いがけず一緒に現れた初対面のさよ子に対して、いわば順助への心づかいから、自分をなるたけ内輪に内輪にと表現しようとしているのが、順助にはっきり感じられた。
演奏会が終ってから銀座へでも出ようと、暗いビルディングの間を歩いたりするときも、桃子は和服で草履ばきのさよ子の足なみに自分の歩調を合わせている。さよ子は一向それに気づかないでいる。さよ子のその自然さも、順助にはわかる。
三人は、階下で花なども売っている有名な果物店の上で冷たい飲みものをとり、そこからぶらぶら有楽町の駅まで行った。出札口のところに切符を買うひとの列が出来ていて、順助はその一番しまいに跟いたが、何気なく帽子をかぶり直す横顔に微かな当惑の色の浮かんでいるのが桃子の目に入った。ああ、きっとかえる方向が別々なのだ。桃子がひとりになるのを順助は気にしているのだ。