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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页

青空文庫

四月から九月まで、一銭の金銭も取れぬということと、それがまだいつまで続くか不明の故に、一家四人をひきつれて所持金なしの旅の空は、乞食同様で、考えたら最後ぞっと寒気がする。私の持って来た金銭がも早やいくばくもない折だ。この蚤から逃れる方法は、今のところ見当がつきかねる。誰も同様に困っているときとて、他人から借りる工夫もなりかねるこの不安さに対しては、援けなど求めようがない。赤の他人ばかりの中の、その日、その日の雨多いこのごろだ。

九月――日

米の配給日――この日は心が明るくなる筈だのに、私ら一家は反対だ。配給所まで一里あって、そこを二斗の米を背負って来ることは不可能である。人夫を頼もうにも、暇のあるものは一人もない手不足だ。駅まで半道、それからまた半道、長男と妻と二人で行く。その留守に私は道元の「心不可得」の部を読む。岩波版の衛藤氏編中のものだが、この衛藤氏は新潟在に疎開中で、そこからときおり夫人が菅井和尚の寺まで見えるとのことだ。道元集も、私が和尚から貰ったもので、和尚も著者から貰ったもの。

「奥さんが先日も来られて、一度でいいから、白い御飯をお腹いっぱい食べてみたいと私に云われましたよ。