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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页

青空文庫

次ぎの雨の来ない今のうちに刈り取らねば――

「ああ、今年は早稲の勝ちだ。暴風にあわずにすんだのは早稲だけだ。」

とそういうものもある。解除の軍隊の眠むそうな顔いっぱい満たした汽車が、ひれ伏した稲穂の中を通ってゆく。

紫苑の花、暴風で吹きち切れた柿の葉の間から、実が眼立って顕れてくる。つらなる山脈のうす水色の美しさ。

「農業の労働はたいへんな労働だが、始終やっているものには、そう特にむずかしいものではないのう。そんでも、やったことのないものには、これは、とても出来ることではないね。」と久左衛門がいう。

一冊の本さえ満足にある家は少ない。読みたいと思うよりも、そんな興味を感じる閑はないのだ。そのくせ細かい話も、話し方ではよく通じる。私はあるとき、これで村に一台新しい農具の機械が必要だという場合、どんなことに使う機械が一番必要かと訊ねたことがあるが、すると六十八にもなるこの無学な久左衛門は、

「それは検討せねばならぬことだのう。」

と、言って暫く考え込んだ。検討という言葉は、辞苑を引いても書いてない新しい言葉だ。またこの老農は、社会上の出来事にもなかなか興味をもっていて、あるとき、