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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

照れくさいのである。それに、一人でやるところに、豹吉はいかにも豹吉らしいやり甲斐を感じていた。

もっとも、豹吉は向うみずではあったが、莫迦ではなかった。

だからS署の前まで来た時、さすがにいきなり飛び込んで行くような、滅茶苦茶な真似はしなかった。

「どうしたら、最も効果的に救い出せるだろうか」

と、立ち停って考えてみるだけの、思慮分別は持っていた。

S署の玄関は、警官が出たりはいったりしていた。

制服ではないが、玄関の石段を登って行く歩き方で、

「私服だな」

と、すぐ判るものもいた。

真青な顔で、泡を食いながら、ソワソワと石段を登って行くのは、掏摸にやられて届けるのか、それとも駅で置引に荷物を盗まれたのだろうか。

シャツをズタズタにして、顔中血まみれの男が二人、昂奮しながら、警官に連れられてはいって行くのは、いわずと知れた喧嘩だ。

「なるほど、喧嘩というやつは見苦しいわい」

と、豹吉は呟いた。

棍棒を持った若い警官が五、六人、あわただしく出て来て、駅の方へかけ出して行った。

どんな事件だろう。

若い女が泣きながら石段を駈け登って行く。

何を訴えに行くのだろう。