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やこうちゅう
夜光虫
織田 作之助
「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页
しかし、跡形もなかった。焼跡に佇んで、途方に暮れているうちに、ふと細工谷の友人のことを想いだした。
「そうだ、今夜あそこで泊めて貰おう」
そう思って、やって来たのだが、裸の娘を拾った今は、もう頼って行けそうにもなかった。
深夜、停電している家へ、そんな娘を連れて行って、泊めてくれとは、さすがに云えなかった。自分ひとりなら、無理も云えるのだが、といって、娘を追い返すわけにもいかない。
宿なしの悲しさが、土砂降りの雨のように小沢の心に降り注いで来た。
「困ったなア……」
小沢は眉毛まで情けなく濡れ下りながら、呟いた。
長い間、雨の中を傘なしで歩いて来たので、下着を透して毛穴まで濡れていた。五月だが、寒く、冷たい。
「しかし、この娘の方がもっと寒いだろう」
ガタガタ顫えている娘の身ぶるいを感ずると、少しでも早く雨をしのぐところを探してやりたかった。
「本当に家へ帰らないの……?」
娘はうなずいて、
「帰れません」
小さな声で言った。
「どこか宿屋はないかな」
「阿倍野の方へ行ったら、あるかも知れません」
娘が言った。大阪訛だった。
宿屋へも構わずついて来るつもりらしい。