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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

ルンペンだよ」

小沢はひょいと言ったが、さすがに弱った声だった。

「宿無しだよ。ルンペンだよ」

と、語呂よく、調子よく、ひょいと飛び出した言葉だが、しかしその調子の軽さにくらべて、心はぐっしょり濡れた靴のように重かった。

小沢は学生時代、LUMPEN(ルンペン)という題を出されて、

「RUMPEN とは合金ペンなり」

という怪しげな答案を書いたことがあるが、ルンペンの本来の意味は、ボロとか屑とかいう意味である。

つまり、宿なし、失業者、浮浪者といった意味のルンペンとは、人間のボロ、人間の屑というわけであろう。

宿がないということは、屑であるということだ。それほど、宿なしは辛いのだ。

ところが、今、小沢はその辛さを痛切に味わねばならなかった。

実は、この細工谷町で異様な裸の娘を拾ったというのも、小沢が宿なしだったからである。

小沢は両親も身寄りもない孤独な男だったが、それでも応召前は天下茶屋のアパートに住んでたのだから、今夜、大阪駅に著くと、背中の荷物は濡れないように(また、雨の中を背負って行く邪魔でもあったので)駅の一時預けにして、まず天下茶屋のアパートへ行ってみた。