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やこうちゅう
夜光虫
織田 作之助
「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页
腹の皮がひっつくくらい、ペコペコになっていたせいか、涙が出るほど美味かった。カンゴクへ連れて行かれるかも知れないという恐怖を、ふと忘れるくらい、無我夢中で食べてしまって、きょとんとしていると、
「どや、美味いか。ほしかったら、もっとあるぜ」
と、針助はまたパンを出した。
次郎はふと、
「このパンを母ちゃんに持って帰ってやったら……」
どんなに喜ぶだろうと、思った。が、果して無事に家へ帰れるかどうか。
しかし、三郎はさすがに年が幼かった。何も考えずに、あっという間にパンを口の中へ入れて、のどにつまり、眼を白黒させていた。
そんな二人の容子をにやにやしながら、針助は、
「お前ら、まだ新米の掏摸やろ」
と、言った。
「…………」
「下手くそやぞ、お前らの掏り方は……」
「今夜はじめてだす」
次郎は蚊の鳴くような声を出して、
「――かんにんしとくなはれ、大将」
と、ぺこんと頭を下げた。
「はじめてや……?」
と、針助はにやにやして、
「――そやろ、新米でなかったら、あんな下手な掏り方はせん。どや、おっさんが一つ仕込んだろか」
「えっ……?」
「おっさんとこイ、来たらいつでも仕込んだる。