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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

第三章

一

その心持ちから、彼は住み慣れた山の中をいくらかでも離れて見るようにして、あそこに柿の梢がある、ここに白い壁があると、寿平次にさして言って見せた。恵那山のふもとに隠れている村の眺望は、妻籠から来て見る寿平次をも飽きさせなかった。

「寿平次さん、旅に出る前にもう一度ぐらいあえましょうか。」

「いろいろな打ち合わせは手紙でもできましょう。」

「なんだかわたしは夢のような気がする。」

こんな言葉をかわして置いて、その日の午後に寿平次は妻籠をさして帰って行った。

長いこと見聞の寡いことを嘆き、自分の固陋を嘆いていた半蔵の若い生命も、ようやく一歩踏み出して見る機会をとらえた。その時になって見ると、江戸は大地震後一年目の復興最中である。そこには国学者としての平田鉄胤もいる。鉄胤は篤胤大人の相続者である。かねて平田篤胤没後の門人に加わることを志していた半蔵には、これは得がたい機会でもある。のみならず、横須賀海岸の公郷村とは、黒船上陸の地点から遠くないところとも聞く。半蔵の胸はおどった。

第三章

一

「蜂谷君、近いうちに、自分は江戸から相州三浦方面へかけて出発する。妻の兄、妻籠本陣の寿平次と同行する。