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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

この谷の中だ。木曾地方の人たちが山や林を力にしているのに不思議はない。当時の木曾山一帯を支配するものは尾張藩で、巣山、留山、明山の区域を設け、そのうち明山のみは自由林であっても、許可なしに村民が五木を伐採することは禁じられてあった。言って見れば、檜木、椹、明檜、高野槇、※の五種類が尾張藩の厳重な保護のもとにあったのだ。半蔵らは、名古屋から出張している諸役人の心が絶えずこの森林地帯に働いていることを知っていた。一石栃にある白木の番所から、上松の陣屋の辺へかけて、諸役人の目の光らない日は一日もないことを知っていた。

しかし、巣山、留山とは言っても、絶対に村民の立ち入ることを許されない区域は極少部分に限られていた。自由林は木曾山の大部分を占めていた。村民は五木の厳禁を犯さないかぎり、意のままに明山を跋渉して、雑木を伐採したり薪炭の材料を集めたりすることができた。檜木笠、めんぱ(木製割籠)、お六櫛、諸種の塗り物――村民がこの森林に仰いでいる生活の資本もかなり多い。耕地も少なく、農業も難渋で、そうかと言って塗り物渡世の材料も手に入れがたいところでは、「御免の檜物」