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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
01 第一部上
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页
「半蔵さんはため息ばかりついてるじゃありませんか。」
「でも、君には事務の執れるように具わってるところがあるからいい。」
「そう君のように、むずかしく考えるからさ。庄屋としては民意を代表するし、本陣問屋としては諸街道の交通事業に参加すると想って見たまえ。とにかく、働きがいはありますぜ。」
囲炉裏ばたの方で焼く小鳥の香気は、やがて二人のいる座敷の方まで通って来た。夕飯には、下女が来て広い炬燵板の上を取り片づけ、そこを食卓の代わりとしてくれた。一本つけてくれた銚子、串差しにして皿の上に盛られた鶫、すべては客を扱い慣れた家の主人の心づかいからであった。その時、半蔵は次ぎの間に寛いでいる佐吉を呼んで、
「佐吉、お前もここへお膳を持って来ないか。旅だ。今夜は一杯やれ。」
この半蔵の「一杯」が佐吉をほほえませた。佐吉は年若ながらに、半蔵よりも飲める口であったから。
「おれは囲炉裏ばたでいただかず。その方が勝手だで。」
と言って佐吉は引きさがった。
「寿平次さん、わたしはこんな旅に出られたことすら、不思議のような気がする。実に一切から離れますね。」
「もうすこし君は楽な気持ちでもよくはありませんか。