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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
01 第一部上
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页
思いがけない屋敷町の方で読書の声を聞いて来た、と言うのは半蔵であった。
その晩、半蔵は寿平次と二人枕を並べて床についたが、夜番の拍子木の音なぞが耳について、よく眠らなかった。枕もとにあるしょんぼりとした行燈のかげで、敷いて寝た道中用の脇差を探って見て、また安心して蒲団をかぶりながら、平田家を訪ねた日のことなぞを考えた。あの鉄胤から古学の興隆に励めと言われて来たことを考えた。世は濁り、江戸は行き詰まり、一切のものが実に雑然紛然として互いに叫びをあげている中で、どうして国学者の夢などをこの地上に実現し得られようと考えた。
「自分のような愚かなものが、どうして生きよう。」
そこまで考えつづけた。
翌朝は、なるべく早く出立しようということになった。時が来て、半蔵は例の青い合羽、寿平次は柿色の合羽に身をつつんで、すっかりしたくができた。佐吉はすでに草鞋の紐を結んだ。三人とも出かけられるばかりになった。
十一屋の隠居はそこへ飛んで出て来て、
「オヤ、これはどうも、お粗末さまでございました。どうかまた、お近いうちに。」
と手をもみながら言う。江戸生まれで、まだ木曾を知らないというかみさんまでが、隠居のそばにいて、