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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

さしあたり寛斎の仕事は、安兵衛らを助けて横浜貿易の事情をさぐることであった。新参の西洋人は内地の人を引きつけるために、なんでも買い込む。どうせ初めは金を捨てなければいけないくらいのことは外国商人も承知していて、気に入らないものでも買って見せる。江戸の食い詰め者で、二進も三進も首の回らぬ連中なぞは、一つ新開地の横浜へでも行って見ようという気分で出かけて来る時だ。そういう連中が持って来るような、二文か三文の資本で仕入れられるおもちゃの類でさえ西洋人にはめずらしがられた。徳川大名の置き物とさえ言えば、仏壇の蝋燭立てを造りかえたような、いかがわしい骨董品でさえ二両の余に売れたという。まだ内地の生糸商人はいくらも入り込んでいない。万屋安兵衛、大和屋李助なぞにとって、これは見のがせない機会だった。

だんだん様子がわかって来た。神奈川在留の西洋人は諸国領事から書記まで入れて、およそ四十人は来ていることがわかった。紹介してもらおうとさえ思えば、適当な売り込み商の得られることもわかった。おぼつかないながらも用を達すぐらいの通弁は勤まるというものも出て来た。

やがて寛斎は安兵衛らと連れだって、一人の西洋人を見に行った。