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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

ほんとうでしょうか。まあ、わたしたちから見ると、優しい風俗だと思いますがなあ。」

「気味悪く思うのはお互いでしょう。事情を知らない連中と来たら、いろいろなことをこじつけて、やれ幕府の上役のものは西洋人と結託しているの、なんのッて、悪口ばかり。鎖攘、鎖攘(鎖港攘夷の略)――あの声はどうです。わたしに言わせると、幕府が鎖攘を知らないどころか、あんまり早く鎖攘し過ぎてしまった。蕃書は禁じて読ませない、洋学者は遠ざけて近づけない、その方針をよいとしたばかりじゃありません、国内の人材まで鎖攘してしまった。御覧なさい、前には高橋作左衛門を鎖攘する。土生玄磧を鎖攘する。後には渡辺華山、高野長英を鎖攘する。その結果はと言うと、日本国じゅうを実に頑固なものにしちまいました。外国のことを言うのも恥だなんて思わせるようにまで――」

「先生、肉が煮えました。」

と十一屋は瑞見の話をさえぎった。

女中が白紙を一枚ずつ客へ配りに来た。肉を突ッついた箸はその紙に置いてもらいたいとの意味だ。煮えた牛鍋は庭から縁側の上へ移された。奥の部屋に、牡丹屋の家の人たちがいる方では、障子をあけひろげるやら、こもった空気を追い出すやらの物音が聞こえる。