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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

て来た。羅紗、唐桟、金巾、玻璃、薬種、酒類なぞがそこからはいって来れば、生糸、漆器、製茶、水油、銅および銅器の類なぞがそこから出て行って、好かれ悪しかれ東と西の交換がすでにすでに始まったように見えて来た。

郷里の方に待ち受けている妻子のことも、寛斎の胸に浮かんで来た。彼の心は中津川の香蔵、景蔵、それから馬籠の半蔵なぞの旧い三人の弟子の方へも行った。あの血気壮んな人たちが、このむずかしい時をどう乗ッ切るだろうかとも思いやった。

生糸売り上げの利得のうち、小判で二千四百両の金を遠く中津川まで送り届けることが寛斎の手に委ねられた。安兵衛、嘉吉の二人は神奈川に居残って、六月のころまで商売を続ける手はずであったからで。当時、金銀の運搬にはいろいろ難渋した話がある。※にくるんで乾物の荷と見せかけ、かろうじて胡麻の蠅の難をまぬかれた話もある。武州川越の商人は駕籠で夜道を急ごうとして、江戸へ出る途中で駕籠かきに襲われた話もある。五十両からの金を携帯する客となると、駕籠かきにはその重さでわかるという。こんな不便な時代に、寛斎は二千四百両からの金を預かって行かねばならない。