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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

福島からは別に差紙が来て、年寄役付き添いの上、馬籠の庄屋に出頭せよとある。今は、半蔵も躊躇すべき時でない。

「お民、おれはお父さんの名代に、福島まで行って来る。」

と妻に言って、彼は役所に出頭する時の袴の用意なぞをさせた。自分でも着物を改めて、堅く帯をしめにかかった。

「どうも人気が穏やかでない。」

父、吉左衛門はそれを半蔵に言って、福島行きのしたくのできるのを待った。

この父は自分の退役も近づいたという顔つきで、本陣の囲炉裏ばたに続いた寛ぎの間の方へ行って、その部屋の用箪笥から馬籠湯舟沢両村の古い絵図なぞを取り出して来た。

「半蔵、これも一つの参考だ。」

と言って子の前に置いた。

「双方入り合いの草刈り場所というものは、むずかしいよ。山論、山論で、そりゃ今までだってもずいぶんごたごたしたが、大抵は示談で済んで来たものだ。」

とまた吉左衛門は軽く言って、早く不幸な入牢者を救えという意味を通わせた。

湯舟沢の方の百姓は、組頭とも、都合八人のものが福島の役所に呼び出された。馬籠では、年寄役の儀助、同役与次衛門、それに峠の組頭平助がすでに福島へ向けて立って行った。