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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
01 第一部上
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页
「箒星ですよ。午年に北の方へ出たのも、あのとおりでしたよ。どうも年回りがよくないと見える。」
この吉左衛門の言葉を聞き捨てて、寿平次は味噌納屋の前から同じ屋敷つづきの暗い石段を上った。月はまだ出なかったが、星があって涼しい。例の新築された会所のそばを通り過ぎようとすると、表には板庇があって、入り口の障子も明いている。寿平次は足をとめて、思わずハッとした。
「どうも半蔵さんばかりじゃなく、伊之助さんまでが賛成だとは意外だ。」
「でも結果から見て悪いと知ったことは、改めるのが至当ですよ。」
こんな声が手に取るように聞こえる。宿役人の詰め所には人が集まると見えて、灯がもれている。何かがそこで言い争われている。
「そんなことで、先祖以来の祭り事を改めるという理由にはなりませんよ。」
「しかし、人の心を改めるには、どうしてもその源から改めてかからんことにはだめだと思いますね。」
「それは理屈だ。」
「そんなら、六十九人もの破戒僧が珠数つなぎにされて、江戸の吉原や、深川や、品川新宿のようなところへ出入りするというかどで、あの日本橋で面を晒された上に、一か寺の住職は島流しになるし、所化の坊主は寺法によって罰せられたというのは。