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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

「半蔵、お前も知ってるように、吾家には出入りをする十三人の百姓がある。中には美濃の方から吾家へ嫁に来た人に随いて馬籠に移住した関係のものもある。正月と言えば吾家へ餅をつきに来たり、松を立てたりしに来るのも、先祖以来の関係からさ。あの百姓たちには目をかけてやれよ。それから、お前に断わって置くが、いよいよおれも隠居する日が来たら、何事もお前の量見一つでやってくれ――おれは一切、口を出すまいから。」

父はこの調子だ。半蔵の方でもう村方のことから街道の一切の世話まで引き受けてしまったような口ぶりだ。

その日、半蔵は父のいる部屋から店座敷の方へ引きさがって来た。こういう日の来ることは彼も予期していた。長い歴史のある青山の家を引き継ぎ、それを営むということが、もとより彼の心をよろこばせないではない。しかし、実際に彼がこの家を背負って立とうとなると、これがはたして自分の行くべき道かと考える。国学者としての多くの同志――ことに友人の景蔵なぞが寝食を忘れて国事に奔走している中で、父は病み、実の兄弟はなし、ただ一人お喜佐のような異腹の妹に婿養子の祝次郎はあっても、この人は新宅の方にいて彼とはあまり話も合わなかった。