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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
01 第一部上
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页
お父さんも大層よろこんでおいでのようだよ。」
家にはこの継母があり、妻があり、吉左衛門の退役以来手伝いに通って来る清助がある。半蔵は往復七日ばかりの留守を家のものに頼んで置いて、王滝の方へ向かおうとした。下男の佐吉は今度も供をしたいと言い出したが、半蔵は佐吉も家に残して置いて、弟子の勝重だけを連れて行くことにした。勝重も少年期から青年期に移りかける年ごろになって来て、しきりに同行を求めるからで。
神前への供米、『静の岩屋』二冊、それに参籠用の清潔で白い衣裳なぞを用意するくらいにとどめて、半蔵は身軽にしたくした。勝重は、これも半蔵と一緒に行くことを楽しみにして、「さあ、これから山登りだ」という顔つきだ。
本陣の囲炉裏ばたでは、半蔵はじめ一同集まってこういう時の習慣のような茶を飲んだ。そこへ思いがけない客があった。
「半蔵さん、君はお出かけになるところですかい。」
と言って、勝手を知った囲炉裏ばたの入り口の方からはいって来た客は、他の人でもない、三年前に中津川を引き揚げて伊那の方へ移って行った旧い師匠だ。宮川寛斎だ。
寛斎はせっかく楽しみにして行った伊那の谷もおもしろくなく、そこにある平田門人仲間とも折り合わず、飯田の在に見つけた最後の「隠れ家」