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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

さりながら、世間の有様を考ふるに、今は物ごと新奇を好む風俗なれば、この学風も儒仏の道の栄えたるごとく、だんだんと弘まり行くことであらうと思はれる。しからんには、世のため、人のためとも成るべきことも多からうなれども、又、害となることも少なかるまいと思はれるでござる。是こそは彼の吉事に是の凶事のいつぐべき世の中の道なるをもつて、さやうには推し量り知られることでござる。そもそもかく外国々より万づの事物の我が大御国に参り来ることは、皇神たちの大御心にて、その御神徳の広大なる故に、善き悪しきの選みなく、森羅万象ことごとく皇国に御引寄せあそばさるる趣きを能く考へ弁へて、外国より来る事物はよく選み採りて用ふべきことで、申すも畏きことなれども、是すなはち大神等の御心掟と思ひ奉られるでござる。」

半蔵は深いため息をついた。それは、自分の浅学と固陋とばか正直とを嘆息する声だ。先師と言えば、外国よりはいって来るものを異端邪説として蛇蝎のように憎みきらった人のように普通に思われているが、『静の岩屋』なぞをあけて見ると、近くは朝鮮、シナ、インド、遠くはオランダまで、外国の事物が日本に集まって来るのは、すなわち神の心であるというような、こんな広い見方がしてある。