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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
01 第一部上
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页
ここの禰宜さまの話で見ると、そうじゃないんだね。講中というものを組織して、この山へ導いて来たのがあの人たちなんだね。」
二人は話し話し登った。新しい石の大鳥居で、その前年(文久二年)に尾州公から寄進になったというものの前まで行くと、半蔵らは向こうの山道から降りて来る一人の修行者にもあった。珠数を首にかけ、手に杖をつき見るからに荒々しい姿だ。肉体を苦しめられるだけ苦しめているような人の相貌だ。どこの岩窟の間から出て来たか、雪のある山腹の方からでも降りて来たかというふうで、山にはこんな人が生きているのかということが、半蔵を驚かした。
間もなく半蔵らは、十六階もしくは二十階ずつから成る二町ほどの長い石段にかかった。見上げるように高い岩壁を背後にして、里宮の社殿がその上に建てられてある。黒々とした残雪の見られる谷間の傾斜と、小暗い杉や檜の木立ちとにとりまかれたその一区域こそ、半蔵が父の病を祷るためにやって来たところだ。先師の遺著の題目そのままともいうべきところだ。文字どおりの「静の岩屋」だ。
とうとう、半蔵は本殿の奥の霊廟の前にひざまずき、かねて用意して来た自作の陳情祈祷の歌をささげることができた。