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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
01 第一部上
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页
子供らは街道に集まっていた。夕空に飛びかう蝙蝠の群れを追い回しながら、遊び戯れているのもその子供らだ。山の中のことで、夜鷹もなき出す。往来一つ隔てて本陣とむかい合った梅屋の門口には、夜番の軒行燈の燈火もついた。
一日の勤めを終わった吉左衛門は、しばらく自分の家の外に出て、山の空気を吸っていた。やがておまんが二人の下女を相手に働いている炉ばたの方へ引き返して行った。
「半蔵は。」
と吉左衛門はおまんにたずねた。
「今、今、仙十郎さんと二人でここに話していましたよ。あなた、異人の船がまたやって来たというじゃありませんか。半蔵はだれに聞いて来たんですか、オロシャの船だと言う。仙十郎さんはアメリカの船だと言う。オロシャだ、いやアメリカだ、そんなことを言い合って、また二人で屋外へ出て行きましたよ。」
「長崎あたりのことは、てんで様子がわからない――なにしろ、きょうはおれもくたぶれた。」
山家らしい風呂と、質素な夕飯とが、この吉左衛門を待っていた。ちょうど、その八月朔日は吉左衛門が生まれた日にも当たっていた。だれしもその日となるといろいろ思い出すことが多いように、吉左衛門もまた長い駅路の経験を胸に浮かべた。